現役翻訳者が教える翻訳者になる方法
こんにちは!オフィスペンぎんです。
私は、フリーランス(個人事業主)として翻訳の仕事を請け負っていますが、かつては会社員として翻訳会社に勤めていました。翻訳会社では実際に翻訳をしていましたが、翻訳を専業にしている外部翻訳者(ほとんどフリーランス)に案件を依頼する立場でもありました。
現役の翻訳者であり、またかつては翻訳会社に勤めていた者として、「どうしたら翻訳者になれるのか」とよく聞かれます。この質問に対して、私はいつも「外国語に自信があるなら、誰でもなれる」と答えています。
翻訳者は誰でもなれる
翻訳者は、弁護士や税理士などの士業や試験通過が必須の公務員とは異なり、開業したり仕事を請け負ったりするのに特定の資格が必要になるわけではありません。せいぜい、英語であればTOEICやTOEFL、中国語であればHSKや中国語検定など、語学力を示す資格があるぐらいですが、そのスコアや資格が必ずしも重視されるわけではありません。
翻訳業界は実力主義の色合いが濃く、納期に送れず、確かな翻訳を提供できれば、誰にでも仕事を請け負うチャンスがあります。もちろんコストパフォーマンスも重視されますが、先にふれた士業や公務員とは、なるための資格がないという点で大きく異なります。
以下では、翻訳者として、また翻訳会社に勤めていた者の立場として、どうやったら翻訳の仕事を請け負えるのか、簡単に説明したいと思います。
翻訳会社と契約して仕事を請け負う
翻訳の仕事を請け負う最もオーソドックスな方法は、翻訳会社と契約して、業務を流してもらうことです。
翻訳会社は、翻訳業務の元請けです。翻訳会社は、翻訳を必要としている顧客から翻訳業務を受注し、受注した業務を社内で翻訳したり、社外の翻訳者や翻訳会社に再委託したりします。
つまり、翻訳者として翻訳業務を請け負うには、翻訳を必要としている顧客の翻訳案件を、翻訳会社を通じて間接的に請け負うのが正攻法です。そのためには、元請けの翻訳会社と請負契約などを締結し、仕入先の翻訳者として登録してもらうことになります。そのための方法は、おおまかに2つあります。
翻訳会社の募集情報をチェックする
翻訳会社の多くは、自前のウェブサイトを持っています。翻訳者が足りていない、新たに翻訳者を必要としている会社であれば、ウェブサイトに募集情報を掲載しているので、まずは条件に合った募集がないか片っ端から探してみましょう。必要になったときだけ募集する会社もあれば、常時募集している会社もあります。また、募集していなくても売込をかけるのはアリだと思います。
多くの場合、選考は書類審査が主で、場合によっては翻訳サンプルの提出や試訳を求められます。
参考までに、私は翻訳会社で外部翻訳者を選定するときは、翻訳サンプルを提出してもらうか、試訳をお願いするかしていました。その内容に対しては、表面的な誤字・脱字よりも、解釈上の誤りや表現としての不自然さをより問題視していますが、重視する点は会社や担当者によって異なると思います。会社によっては、意訳より、直訳より、と訳し分けできるかを評価するかもしれません。
もし審査に合格すれば、契約締結に移行します。契約締結時に報酬単価を決定することもあります。
翻訳会社からのスカウトを待つ
わざわざ翻訳会社に応募しなくても、翻訳会社から依頼や相談を受けることもあります。
例えば、翻訳会社はときどき、既存の委託先翻訳者だけではさばききれない仕事を請け負うことがあります。緊急的に翻訳者が必要になると、取引したことのない翻訳者にも手あたり次第相談することがあります。
翻訳会社は未知の翻訳者と接触するのに、翻訳者が集うウェブサイトやウェブサービスを活用することがあります。
有名なところでは、「翻訳者ディレクトリ」があります。翻訳者ディレクトリは、翻訳者として自分で自分を自由に登録することができるので、翻訳の仕事を請け負おうと思ったら、真っ先に登録することをおすすめします。
他には、最近は日本でも利用者が増えてきた"LinkedIn"を活用する場合もあります。
また、個人のウェブサイトを通じて直接相談してくることもありますので、可能であれば、自前のウェブサイトを用意しておくとベターです。
その他、ランサーズやクラウドワークス、Gengo、ココナラなどのクラウドソーシングで直接仕事を依頼する可能性もあります。
契約締結 ≠ 仕事がもらえる
翻訳会社と契約を締結し、仕入先として登録されでも、絶対に翻訳の仕事を請け負えるというわけではありません。
内情を言ってしまうと、翻訳会社には贔屓にしている翻訳者がいます。これは当然なことであり、実力も責任感も十分あると認めている翻訳者がいれば、翻訳会社からしてもなるべくその人に発注したくなるものです。
仕事を発注する立場から言うと、いくら翻訳サンプルや試訳の結果が良くても、いざ初めての人に依頼するときは不安がつきまとうものです。
ただ、これは言い換えれば、このあたりの発注者の不安をうまく取り除けるような対応をすれば(適時に細かく連絡をするだけでも違います)、案外簡単に贔屓される側になるのではないかとも思います。
いずれにせよ、このような事情がある以上、お付き合いのある翻訳会社はできるだけ多い方が良いでしょう。
顧客と直接取引する
翻訳会社を通さずに、翻訳を必要としている顧客と直接取引するのも不可能ではありません。この場合、仲介する翻訳会社がなくなるので、顧客は安く発注できて、翻訳者は高く受注できると、両者ウィンウィンになります。ただ、これはハードル高めです
法人は通常、法人と取引したがります。これは、対個人の取引では信用に乏しく、責任を負担する力も小さいため、取引リスクが大きくなります。これらの点で、法人は個人よりも圧倒的に強みがあります。
また、源泉徴収の問題もあります。個人の翻訳者に翻訳を依頼する場合、法人であれば通常源泉徴収を行う必要があります。源泉徴収の処理は手間がかかるため、やりたがらない法人がいても不思議ではありません。
翻訳を必要とする顧客と直接取引するためには、その顧客が個人との取引をどう考えているかにかかっていて、運によるところも大きいです。
また、翻訳者であれ翻訳会社であれ、顧客と接点を持つためには、一定の営業が必要になり、この点においても個人は法人に比べて劣るのが通常です。
さらに、今後のインボイス制度のことまで考えると、なおさら個人での取引が難しくなりそうです。
クラウドソーシングを活用する
最近ではクラウドソーシングを活用して、翻訳の仕事を請け負う人も増えてきました。
クラウドソーシングに登録すると、翻訳案件に応募できたり、あるいは直接相談されたりするので、実際に仕事を請け負いやすいと言われています。
しかし、クラウドソーシングを介して取引をする以上、手数料の負担があるうえ、低価格で請け負う人も多くいるため、なかなかそれなりの収益を上げ続けるのは難しいようです。
ただ、翻訳者としてのキャリアを積むことができるので、まずはハードルの低いクラウドソーシングから始め、徐々に翻訳会社と契約を締結していくというのは現実的です。
翻訳者としての効果的なアピール
翻訳者は、翻訳実績や経験はもちろんですが、得意分野を持つことが武器になります。
医薬、特許、法律・法務、機械、財務・会計、広報など、特定の分野に精通する翻訳者は、顧客や翻訳会社にとって心強い存在です。実際に、顧客と打ち合わせをしていると、その分野に精通した人、業界経験がある人に翻訳してほしいという声をよく聞きます。
前述の分野は割とニーズがあり、もし現状特に得意分野がないのであれば、この辺りから攻めていくのが無難です。
個人的な考えではありますが、「なんでもできます」というアピールは避けたほうが賢明です。経験上、「なんでもできる」という翻訳者は、なんにもできませんでした。外国語がわかる程度であって、専門性の高い案件を任せると、本質を全く理解していないであろう直訳文があがってしまうことが少なくありませんでした。まずは、武器となる専門性を持ちましょう。
実践が一番の近道
翻訳者になりたければ、翻訳の仕事を請け負いたければ、実践が一番の近道になると思います。
世の中には翻訳専門の学校や通信教育を活用するのも否定はできませんが、クラウドソーシングなどを活用して、とにかく業界に足を突っ込む(仕事を請け負う)ことをおすすめします。
何度も実践を積むことで、はじめて正確かつ効率的に対処するノウハウが身につくと思います。