英語を「なんとなく」から「確実」に理解するには
英文を読解するときに大切なことはなんでしょうか。多くの日本人は「単語至上主義」のようで、単語の意味を知ることを最重要視します。単語を覚えることは大切です。しかし、その単語と単語がどう機能し合うかを理解しないと、複雑な英文には対応できません。
このとき、ある英語の原則を理解しているだけで、理解や学習に大きな差が生まれてきます。
英語には絶対的なルールがある
英語は、世界中の学者がはるか昔より研究し、すでに学問的な理論(文法)が体系化しています。そのため、英語を確実に理解するためには、文法を学ぶのが正攻法となります。
しかし、英語の実像は非常に巨大で複雑であるため、文法を学んでいても、その輪郭を認識するのが難しいと思います。一般的に、文法を一つひとつ学ぶことで、輪郭がジワジワと浮き彫りになっていき、あるところまで行くと、ある時点で急にその全体像が見えるようになります。点と点がつながり、線になるといった感覚ですね。こうなれば、英語が確実に理解できるようになります。
全体像がぼやけている状態とは、つまり英語が「なんとなくわかる」という状態です。なんとなく意味がわかる、なんとなく通じる、なんとなく書ける。英語に苦手意識を持っている人は、ほとんどがこの段階にあるのだと思います。
では、英語を確実に理解するためには、結局は文法をひたすら勉強しなければいけないのでしょうか?いえ、決してそんなことはありません。文法を一つひとつ理解すれば、おのずと英語の全体像はつかめるようになると思いますが、文法の勉強は全体像の内部構成(規則性)を学ぶものであって、全体像をつかむために行うものではないからです。
ある英語の絶対的な原則を知っておくと、もっと手っ取り早く全体像を理解できるようになる、つまり英語を確実に理解できるようになります。
学校や塾などの教育機関では、英語に対してあまりこのようにアプローチすることなく、それこそ文法を逐一学習させていると思います。これでは英語に苦手意識をすりこむようなものです。
1つの文に動詞は1つ
英語をマスターするのには、間違いなく相当の努力が必要になり、個々の文法も学ぶ必要があります。また、センスやフィーリングは大切な要素ですが、あくまで文法的な下地があってのものだと思います。
しかし、英語をマスターするためにも、英語の全体像を把握することで、合理的に、効率的に学習を進めることができます。そのために知っておかなければならないのが、1つの文に動詞は1つという大原則です。
この原則を意識できるかできないかで、英語に対する理解力が大きく変わってきます。私は、この原則に気づいたときに目からうろこが落ち、苦手であった英語が途端に得意になりました。点と点が線でつながったような感覚です。
ここでは、教科書にあるような英語ではなく、実際に英語国で使われている「リアルな英文」で見ていきましょう(例文はすべてNATIONAL GEOGRAPHIC KiDSからの抜粋です)。
例1
Orcas hunt everything from fish to walruses, seals, sea lions, penguins, squid, sea turtles, sharks, and even other kinds of whales.
文がどんなに長くても、1つの文に動詞は1つです。例1ではhuntが動詞です。動詞がhuntだとわかれば、たとえ単語の意味がわからなくても「Orcasはhuntする、everything・・・を。」という構造が理解できます。
動詞を軸に考えて英文を分析する
文中の動詞を見つけることができるだけで、英文読解力は飛躍的に向上します。なぜなら、英語は日本語と違って、語順が厳密に決まっているからです。単語と単語の関係性を表すのを、日本語では助詞が担いますが、。英語で語順が担うからです。
簡単に言うと、英語では動詞(V)の前が主語(S)で、動詞の後が目的語か補語か、あるいは何にもないかです。要するに、動詞がわかることで主述関係がクリアになるのです。
動詞が見つかれば、少なくともSがVする、あるいはSがVの状態にあるということがわかります。
また、Vがわかれば、Sがわかる、つまりSである以上は名詞的成分でなければならない(名詞的に理解しなければならない)と考えることができ、Sが複雑な形をしていても理解するうえで迷子になりません(ゴールは名詞的なものとわかっているので)。
「1つの文に動詞は1つ」の原則は、英文の構造を分析する基礎となります。
どうやって動詞を見つけるか
例1ではわかりやすい英文を取り上げましたが、多くの英文はもう少し複雑です。具体的には、「動詞っぽいもの」がたくさん出てきます。そのため、いかに「動詞っぽいもの」に騙されず、動詞を見抜けるかが英文理解のネックとなります。
動詞とは、いわゆる動詞の原形、現在形と過去形を指します。過去分詞とing形は動詞っぽく見えますが、動詞とは考えません。ざっくり言うと、過去分詞は形容詞として、ing形は形容詞や名詞として考えると理解しやすいです。
また、不定詞(前にtoを伴う動詞の原形)は動詞ではないので気をつけてください。不定詞について言えば、1つの文に動詞は1つしかあってはならない原則があるため、動詞ではないことを表すため、目印としてtoをつけていると解釈しましょう。
例2
Orcas' teeth, numbering about 45 and each measuring about 3 inches (7.6 centimeters) long, are shaped for ripping and tearing prey.
現在形areが動詞とわかれば、その前が主語だとわかります。
主語は名詞的なものでなければいけないので、"Orcas' teeth, numbering about 45 and each measuring about 3 inches (7.6 centimeters) long,"までを名詞的に解釈します(約45本あり、それぞれが3インチあるシャチの歯)。
ちなみに、主語の後にくる ", 名詞的な成分 ,"は、同格と呼ばれるもので、主語=名詞的な成分、が成り立ちます。実際の英文では、この同格や副詞など読解するうえで障害となりやすい成分がありますが、動詞さえ見抜ければ、適切に対処できます。
また、1つしかあってはならない動詞として、すでに"are"が出ているので、原則に従ってnumber、measure、shape、rip、tearはそれぞれnumbering、measuring、shaped、ripping、tearingと形を変えている(動詞ではなくした)と解釈することができます。
文が2つなら動詞は2つ、文が3つなら動詞は3つ
今度は「文」にフォーカスしてみましょう。
実際にリアルな英語に触れてみると、ピリオドからピリオドまでが1文というわけではない場合が多いです。例えば、関係代名詞があったり、接続詞があったりする場合です。
このような場合には、文が2つあれば動詞は2つ、文が3つなら動詞は3つ・・と考えることになります。
接続詞の場合はわかりやすいと思います。and, so, but, because, until, thatなど、文が2つ、3つと連なりますよね。
関係代名詞も、2つの文が1つに合体すると習いましたよね。
例3
These animals may be newly hatched, but they already have survival skills that will allow them to thrive in their harsh, sizzling-hot habitats.
まずは"These animals may be newly hatched"までが1文で、動詞はbeです。
その後ろには接続詞butがあり、もう1つの文が続きます。こちらは"they already have survival skills"が1文で、動詞はhaveです。
survival skillsは関係代名詞thatで修飾されており、that以下は1文となります。動詞はallowです(thriveの前にはtoがあるので、動詞ではなく不定詞です)。
ただし、見たところカンマがあるけど接続詞がない(と解釈すべき)場合は、「1つの文に動詞は1つ」の原則に従って、補助的な方の文にある動詞の変えなければならないと解釈します。これが、いわゆる分詞構文ですね。
例4
Easily recognized by its coat of reddish-orange with dark stripes, the tiger is the largest wild cat in the world.
カンマ後に接続詞がないので、"Easiliy ~ in the world."までが1文と判断できます。また、動詞はisなので、recognizeは(動詞になることが許されず)recognizedと形を変えていると解釈できます。
また、この文のメインはあくまで動詞がある方の"the tiger is the largest wild cat in the world."であって、動詞がない"Easily recognized by its coat of reddish-orange with dark stripes,"は補足的なものと考えると理解しやすくなります。
例外に対応する
「1つの文に動詞は1つ」は英語の絶対的な原則ですが、例外もあります。特に目立つのは原形不定詞です。
原形不定詞とは、すでに動詞が1つあるのに、続けてもう1つ出てくる(ように見える)動詞の原形を言います。文法的に動詞ではなく、あくまで不定詞ですが、見かけ上は動詞に見えてしまうので、例外として扱ったほうがわかりやすいです。
原形不定詞をとる動詞は、使役動詞(let、make、have)と知覚動詞(see, hear)、あとはhelpです。
また、接続詞のthatは省略されることがあるため、同様に動詞が続けて現れているように見えるので注意が必要です。ただ、この原則に従えば、1文中なのに動詞が2つ以上あるとき、thatが省略されているかもしれないと推測することができます。
文法の「なぜ?」に答えられる
「1つの文に動詞は1つ」の原則を意識的に応用できるようになると、英語が容易に理解できるようになり、文法のなぜ?にも合理的に答えられるようになります。
例えば、なぜ進行形は「be動詞+ing形」であるのかとの問いに対して、「動詞は1文中に2つあってはならないから、後ろの動詞の形を変えた」と答えることができます。「そういう決まりだから、単純に暗記しておけ」と盲目的に指導する先生は多いですね。
受け身文「be動詞+過去分詞」についても、まったく同様に答えられます。
現在完了「have+過去分詞」もそうですね、haveという動詞を伴う以上、後ろにくるのが動詞であっては都合が悪いので、形を変えたと解釈できます。
また、動詞の後ろにくる、いわゆる「to+動詞の原形」(例:want to go)、「~ing」(例:enjoy playing football)についても、すでに動詞があるのだから、動詞ではないことがわかるように形を変えていると解釈できます。
英語を勉強するうえでとても大切なのは、なぜ単語(特に動詞)がそのような形をしているのか考えることです。こういった習慣をつけておくと、英語を即座に分析することができ、英文読解にも英作文にも、もちろん英会話にもとても役立ちます。
TOEICなどの文法問題が得意になる
「1つの文に動詞は1つ」の原則は、英語の内部構造(文法)を合理的に、スムーズに理解し、英語の全体像をとらえるのに威力を発揮します。特に試験対策のためというわけではありませんが、もちろん試験にも役立ちます。
個人的な感想として、この原則を理解できたら、TOEICの文法穴埋め問題が超得意になると思います。感覚的にですが、単純に原則に照らすだけで、4つある選択肢が2つに絞れることが多いです。つまり、排除する2つを選んでしまうと、1つの文に動詞が2つになってしまうということですね。TOEICで点数を稼ぎたいというだけの人にも、ぜひこの原則はおさえておいてほしいと思います。
足早に英語の原則について説明しましたが、どんな知識も知っているだけでは効果が薄いです。自分で実際に考え、検証してみることで、はじめて自分のものになります。原則を運用するのも1つのスキルであって、スキルはある程度磨く必要がある思います。
英語をマスターするのは相当な努力が必要ですが、この原則をあらかじめ押さえておけば、きっとその道のりは大幅に短くなると思います。