クリエイターインタビュー
ゲームクリエイターひさしAppさん 前編
マネタイズをはじめとした開発者の指南書『バカ売れアプリ生活』の著者で、ゲームアプリやウェブサービスの開発者「ひさしApp」さんに、個人開発で思うことや戦略的な考えについてお話しを伺いました。聞き手は「ペンギンの教室」運営のオフィスペンぎん(以下「オフペン」)です。
前編ではひさしAppさんの作品について、後編ではひさしAppさんご自身についてフォーカスします!
3年ぶりに新作ゲームアプリをリリースしました!
— ひさしApp@どうぶつスクール個人開発 (@Hisashi_vc) September 21, 2019
「どうぶつスクールシミュレーター」
Unityで初めて作った自作ゲームです。DL、ツッコミ、大歓迎!
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どうぶつスクールシミュレーター 少女と動物で学園ライフ
「どうぶつスクールシミュレーター」は、Unityを使って、Unityらしいものを作ってみたかったというのがベースにありますね。
ひさしさんは、ゲームクリエイターとして、自分の作りたい世界観があって、それを実現している感じですか?
割とそうですけど、多分他の人と比べて特殊で「技術ドリブン」とか「ネタドリブン」みたいなところがあります。
例えば、Unityのこういう技術を使いたいという、プログラマーベースの遺伝子から入っていくのが比較的多いです。
モーションだったり、アバター的な動作だったり、街をマップとして表示させるためには・・みたいな。
自分目線ですけど、技術的なチャレンジを続けています。
自分ベースだと、ゲームではあるけど、ゲームとも限らないというか。シミュレーターゲームってシミュレーションであって、そんなにゲームとも限らない状態なので。
例えば、個人開発者のデジタルサイネージを看板として出すとか、別にゲームと関係ないけど、ちょっとおもしろそうと感じたらやってみます。これがもし1万個とか集まったら、もうだいぶ目を引きますよね。
やるかやれるかはさておき、そういう、カッコよくいえばイノベーションみたいなものをゲームをベースにやっていけそうだと、客観的に自分を見ると、そんな気はします。
つまり、ひさしさんの成長にあわせて、ゲームも成長していく感じでしょうか?
しばらくはそうですね。
ただ、「どうぶつスクールシミュレーター」は作りとしてはめちゃくちゃすぎるので、続編の2とするか、別なものを作る可能性がありますw
「どうぶつスクールシミュレーター」は、なぜこのような世界観になったのでしょうか?
女の子を出したいといった願望、動物はウケるといった狙いはありましたか?
美少女好きなので、女の子を出したい、というのはありました。
動物も比較的好きなんですけど、どちらかというと動物はウケるかなっと。例えば、ゴートシミュレーターとか、動物なにがしゲームはみんな興味を持ちやすいし、グローバルに興味を持たれやすいというのもあります。
それと、例えば『バカ売れアプリ生活』にも登場するちょいちょいさんが作っている「ローラーコースターシミュレーター」や、「ハイスクールシミュレーター」のような、シミュレーター系もUnityっぽくて人気があったり、これらを足したらどうなるかなって思って、詰め込んだ感じですね。
それで、「ハイスクールシミュレーター」を作ったSUGIKAMIさんと、結構アキバの飲み会に誘ってくれるじぇふさんが、それなら「どうぶつスクールシミュレーター」じゃないかとほぼ同時期に言ってくれて、ヒントをくれたというか、自分がぼんやり思っていたイメージがまとまりました。
あと、熊。いろんな熊のゲームが流行っていて、熊もアセットで500円で売っていたから出すか!みたいな、軽いノリです。狙っているっちゃ狙っていますね。
ひさしさんのお言葉を借りると、※エターナル開発を回避するため、どうぶつスクールシミュレーターはどれぐらいの完成度でリリースしましたか?
※エターナル開発:ひさし語。ゲーム開発の工数と構想が膨大になって迷走した挙句、ゲームが永遠に完成しない、リリースできない現象(『バカ売れアプリ生活』参照)
ざっと言ったら50%ですね、今の視点からかもしれませんけど。
普通は70%のところを50%で出した感じです。
どうなるか未知数というか、出したことがないので、どういうバグがどの端末で起きるのかもよくわからない状態だったので。今ならこうなると言えるんですが。
試験的な要素もあったから、早めに出してみようという感じですか?
そうですね。
自分はすぐ出す方なんですけど、早めと言いつつも、本開発が半年ぐらいで、たぶん一番長くかかっています。
さらに企画の模索やUnityのイロハを覚えるのに最低でも2ヶ月はかかっているので、結構リリースまでに時間がかかったと思います。
どうぶつスクールシミュレーターの完成形って考えてますか?
例えば、髪の毛の長さや色を変えるといった、アバター上の基本機能がまだなかったり、銃とか剣とかアイテムを持つっていうことも現時点では基本的に食べ物以外はできないので、これがないと話にならないといったベースの機能がまだ揃っていないかと思います。
髪の毛は、今は初音ミクみたいにフワフワ動くのが主流なんですが、どうぶつスクールはアセットが古くて、そんなに髪の毛らしい動き、挙動もしないので、そういうところも技術的にできるようにしなきゃって思います。
AIもめちゃくちゃ雑なので、道に沿って自然に歩かせるようにしたいです。
つまりゲームやアプリとしての基本的な骨組みが何箇所かできていないので、それを何とかしたいと思っています。
あとは、遊園地とかおもしろい建物を設置したり、浅草や大阪、京都など日本や、世界レベルでマップを広げていけたらおもしろいなっと思います。無限に増えていく容量をどうするのかという問題を、気合とアイディアで解消しつつ・・
開発にあたって、あらかじめターゲットは意識しましたか?
どうぶつシミュレーターやスクールシミュレーターのファンの方々には興味を持ってもらえたら良いな、とは思っていました。
結果的に、ちょっと独創的すぎたり、バカゲーよりだったので、必ずしもユーザーとマッチしていなかったというか。
アバターごっこ遊びって、世界観がきっちりした中でやるものなので、おままごとに突然熊が出てきてもよくわからない、というところまでは想定しきれていませんでした。
ユーザーニーズと自分の作っているものとの親和性は、そこまで高くはなかったかなと・・w
思いついたアイデアをすぐにアップデートで反映しているイメージですが、実際には思いついて着手するまでにタイムラグはありますか?
すぐっちゃすぐですけど、自分の生活リズムや家族とか、例えば家族とどこかに出かけていたり、子どもが泣いていたりすると、できないですね。集中力も下がるし。もちろん、これはしかたがないことですが。
あと、経理処理しなきゃってなってるときもできませんね。
すぐに着手する方ですけど、割と物理的にできないみたいな。
悩むだけ悩んで、何もできずじまいということはありますか?
いくつかはあるかもしれませんけど、少ないとは思います。
最近はゲーム内でコラボをはじめたようですね?
そうですね、最近はコラボもやってます。
コラボ単発で、いきなりダウンロード数がめちゃくちゃ増えることはほとんどないんですが、コラボすると、お互いが味方になってくれやすいというか、興味を持ち続けてくれやすくなるので、それは良いなって思ったりします。
あと、なんらかのミラクルが起きるかもしれないので。
個人クリエイターの方々と、ゲーム内秋葉原のポスターでコラボしました! 次のアプデで反映。大変ありがとうございます〜\(^o^)/https://t.co/9EhmsOS7Qs pic.twitter.com/1weepD7g4f
— ひさしApp@どうぶつスクール個人開発 (@Hisashi_vc) February 24, 2020
コラボをすると、いろいろなとっかかりが増えますもんね。
ん、なんかドットな影が・・?
・・コ・・バーのボクセ・・まだ・・か・・
ネコブレイバー・・ボクセルモデル・・出番はまだですか・・
ボクセルモデル、あったらすぐ出しますw
勇者ネコブレイバーとひさしさんのコラボ、楽しみですw
ところで、ボクセルモデルをゲームに出すにあたって、ボクセルを作る側で特に必要なことってありますか?ボーンを入れるっていうんですか?
人間キャラにしたいんだったら、ボーンとか必要だと思いますけど、ヒューマノイドっていうタイプになっていれば、ユーザーが使えるキャラになります。
ただ単に出すだけ、突っ立っているだけで良かったら、別にボーンはいらなかったりしますね。
どうぶつスクールシミュレーターのユーザーは、日本より海外の方が多いですか?
そうですね、海外の方が多いです。ユーザーの7〜8割は海外ですね。
けっこう海外ユーザーが多いんですね!
海外を相手にしないと、ユーザー数もダウンロード数もそんなに望めないですね。
日本市場狙いとグローバル市場狙いでは、成果のインパクトが違いますか?
パイが違うので、結果は大きく変わると思います。
グローバル市場狙いでいけば、ユーザー数とダウンロード数はすごく増えやすいですね。ちゃんと狙って作ればですけど。
ただ、マネタイズに関していえば、日本やアメリカだけでもだいぶデカいです。
新興国と比べて、1ユーザーあたりの単価がかなり違うので。
実は、こういったことを見据えてやらないと、肩透かしとは言わないけど、現実を見た時にギャップを感じるかもしれません。
1ユーザーあたりの収益や単価は、先進国では高い、途上国では低い、という関係が成り立っている感じですか?
そうですね、物価やGDPとバナーのクリック単価は比例すると思います。
とすると、欧米をはじめとした地域に特化した方がマネタイズ的には得策ということでしょうか?
重みは置いた方が良いですが、新興国の方が圧倒的に人口が多いので、どっちを取るか、両方取るか、のように考えられると思います。
今狙っている市場はどこですか?
日本、アメリカ、中国ですが、中国は国が規制すると終わっちゃうリスクがありますね。
あまり知られていないんですけど、北欧が割と単価が高いですね。ただ、人口はやっぱり少ないかなっと。
言葉の使用を少なめにするとか、海外市場で通用させるために工夫していることはありますか?
まず、わざわざ海外対応をしなくても理解できるUIにする必要がありますね。
言葉という点では、クエストを作っちゃったのでw
例えば「⭐︎×10」のような、アイコンで通じるようにしたらイケるかなっと考えています。
そういえば、どうぶつスクールシミュレーターには、ものすごいたくさんクエストが用意されていますね?
その方が、基本的に継続率が上がりやすいです。
あと、クエストをすべてクリアしたらみんなランキングが同じになってしまうので、ランキングに差を出すためということでもあります。
そういう狙いがあったんですね。
どうぶつスクールシミュレーターは、どんな形でマネタイズを考えていますか?
どうぶつスクールシミュレーターは、そこまで課金向きじゃないですね。
課金向きなゲームって、例えば、レベル15で「はがねのつるぎ」がないと中ボスを倒すのがめちゃくちゃしんどい!という設計をして、そこで課金をしてもらうみたいな。
どうぶつスクールシミュレーターには、そんな明確な目的がないですね。一応「ヤンデレちゃん」というボスキャラはいるんですが。
ただ、課金設計はされていませんが、一応コインとかジェム的なものや、アバターもあるので、時間をお金で買う人向けに、少し入れてみようかなぐらいには思っています。
あと、インディーゲーム界隈にある、開発者に牛丼をおごるみたいな。これはちょっとやってみたいと思っています。
現状は広告収益が主かと思いますが、どうぶつスクールシミュレーターではどのタイプの広告のパフォーマンスが良いですか?
だいたいインターステイシャル(全画面広告)かリワード広告があがりやすいですね。
詳細は確認してませんが、たぶん動画インターステイシャルが良いと思います。
あとは、iPhoneの方がAndroidよりだいぶ良いなっとかはあります。
実は、バナーもバカにならなくて、バナーってインターステイシャルとかと比べて軽視されがちなんですけど、世界の国々って、まだまだブロードバンドになりきれていないというか、回線が細い国があって、そういうところではたぶんバナーしか出ないことがあると思います。
なので、グローバルで考えるのであれば、バナーは結構大事ですね。
今後、有料アプリ、買い切りアプリを作ることは考えていますか?
はるか昔、有料アプリしかない時代があって、アプリってなにかなっとワケわからずにやって、それなりに売れたことはあります。
今はやらない感じですか?
そうですね、自分のスタイルがアップデートをいっぱいするので。
実験的なこともやるので、有料にしてしまうと実験ができなくなってしまうというのがありますね。
なるほど、それだと「技術ドリブン」といかなくなりますもんね。
どうぶつスクールシミュレーターに限らず、ゲーム作りにおいて何かこだわりはありますか?
プレイして良かったと思われたいw
具体的には・・・全部良くしたいと思いますw
アプリ開発以外に、物販などは考えていますか?
もともとコミケに出て、CD-Rとかグッズとかを売ったりしていました。
あと『バカ売れアプリ生活』の前身の『自作ゲーライフ』という本は、自分で出版者にお願いして、秋葉原UDXのデジゲー博で、同人誌として販売しました。
やっぱり、IP(自作オリキャラ)欲しいなというのはあって、今のしまむらくんキャラの発展系でも良いですし、どうぶつスクールシミュレーターでもオリジナリティを少し持たせて、なんかやれたらおもしろいとは思います。
もはやひさしさんはしまむらくんイメージが強くなりましたねw
ところで、ひさしさんというと、一部界隈の人からは「6000万円の人」という認識があるようですが?
人を株式会社化して、ビットコインで売買できるValuというサービスがあったんですが、クリエイターや投資家の間で一時期すごい賑わっていました。
それまで投資家とは縁がなかったのですが、そのうち数名の方々が、Valuの中でいろんなクリエイターの株を買いまくっていました。
当時、私は無料自販機という、ブロックチェーンとValuの果てに結論づけた評価経済系のウェブサービスを作っていました。
お金を使わずになんでも流通できる、割とおもしろげな仕組みなんですが、それに投資家や資産家の方々に興味を持ってもらえた結果(色んな業界のお金持ちがいた)、完全に予想外に6000万円でバイアウトの話がきました。
あ、あと影でなんとなくノリで人助けとかしてた結果かも・・
ただ、実際には、CEOにならないかとかいうジョイン系の話も混ざっていたりして、例によってサラリーマン(というか組織)には向いていなかったのと、あと額がデカすぎると思って。それに周りには、もっとイケてるクリエイターや頑張っている若い人もいたので。
いろいろ考えたんですけど、これ全部周りの頑張っている若い方々に、可能な範囲で使ってくださいみたいなニュアンスで、6000万円の権利を手放しました。でも、いやいやって言われて、常識的な額はいただいたんですけど。
これはすごい話ですね!私だったら、もらって、はいさようなら・・となりそうですがw
ひさしさんの謙虚な性格が現れたような感じでしょうか。
ある程度拘束されるのが向いていないというのもありますね。あとなんか世界が格好良すぎたので・・ダサい方が向いてるのでw\(^q^)/
ブロックチェーンや評価経済といったら、ひさしさんはじぶんコインを作っていましたね?
あれって、ブロックチェーンをまったく使っていないんです。ブロックチェーンがなくてもこういうの作れるじゃんっていう、ちょっとユーモアを効かせた社会実験でした。
じぶんコインは、まったく無価値なんですよ。ブロックチェーンって、資産性があるので売買とかできるんですけど、じぶんコインはなんもないんです。なんの価値もないけど、価値が得られる仕組みにしました。
換金性がまったくないので、法律的に作れちゃうんですよ。規制が入らないので。
今、ブロックチェーンのゲームやサービスを作るとなると、ややグレーだったり、日本では作れなかったりするんですけど、じぶんコインはまったく何でもないので作ることができるんです。
それなのに、モノを食べることができたりします。私もじぶんコインで何回もアキバで肉を食べたりしました。もっとすごいのは、海外旅行に行っちゃったりする人もいて。
例えば、私がひさしコインを発行して、ひさしコインでハワイに行けますとか言ったら、私がハワイの交通費を払えば、例えばひさしコイン100枚で行けちゃうじゃないですか。お金持ちとか、スキルを持っている人だったらできちゃうという仕組みにしました。
結局、ブロックチェーンサービスを作りたかった人たちって、通貨のコミュニティを作りたいみたいな、通貨圏(トークンエコノミー)を作りたいみたいな話になって。でも、それってブロックチェーンはいらないし、多くの人がICOという仕組みで何十億円と集めてそういうコインを作ると言っていたんですけど、そんなトークンエコノミー ≒ じぶんコインみたいなものを、手弁当で無料で作っちゃったらおもしろいだろうなっと思いました。
ただ、じぶんコインはネタで作ったんですけど、自分の生活を犠牲にしてまでじぶんコインに打ち込む方々が想像以上に多く、あまり踏み込み過ぎなくても良いかなっというのはあります。思ってたよりそうなっちゃったかなって。
そういえば私もイチゴ欲しさにのめり込んでましたw
じぶんコインはどのような完成形、理想形を考えていたんですか?
単純には、日本中、世界中の人が通貨発行権を持ったらおもしろいなって。要は、それぞれの人が国や王様になるんです。
じぶんコインは、評価経済オンリーで行ったらどうなるかっていう社会実験みたいな感じです。
いまのところ、じぶんコインは放置されているみたいですが?
じぶんコインを作って、個人的に思ったのが、じぶんコインって王様生成器なんですよ。
あれの一番の形は、人と人との関係性をすごく強めることなんですよ。王様が諸国の人に対してお金とか報酬をあげたら、すごく関係が強くなるじゃないですか。
ビットコインと真逆なんですよ。ビットコインは非中央集権的なので、誰と誰がやり取りしているかわからない状態でも信用できるのが発明であって、じぶんコインは真逆なので、誰と誰がつながっているか強烈にわかるし、構築できるんです。
で、そこで自分を振り返ると、あれ、自分は超個人主義者、完全自由主義者(今風ネットのリバタリアニズム)じゃんって・・。別に誰とつながろうと、割とどうでも良くてwできれば薄くつながっておきたいけど、そこまでつながりたくないので、あれ、なんか自分の性格と真逆なものを作っちゃったけど・・・じゃあちょっと好きなゲームでも作るか!みたいになっちゃいましたw
私がバイブルと呼ぶ『バカ売れアプリ生活』を書いたひさしさんご本人にお話しを伺えて嬉しいです、よろしくお願いします!
まず、ゲームアプリ「どうぶつスクールシミュレーター」を企画したきっかけを教えていただけますか?