不眠解消!グッスリ眠る方法 詳説
ホットミルクで眠くなるほど単純じゃない
眠いのに眠れない。不眠症にさいなまれている方の多くは、どうしたら眠れるのかと答えを模索していると思います。
ホットミルクを飲めば眠くなる。昔から、まことしやかに伝わっている不眠症の解決法です。牛乳には、確かに医学的に入眠を補うと考えられる栄養素が含まれているようです。冷たさによる覚醒をおさえるため、ホットミルクにして飲みましょうと、ホットミルクが不眠症に対する特効薬のように持ち上げられることもあります。
しかし、我々人間ってそんな単純なものじゃありません。筆者自身、ホットミルクを飲んでも一向に眠くならず、むしろ胃にものをいれてしまったせいで、目が覚めてしまったんじゃないかと思ったぐらいです。
ひょっとしたら、ホットミルクによる入眠効果は、カルシウムを摂取したらすぐに背が伸びますと言うぐらい、極端なものなのかと思いました。
そこで、ここでは眠りや不眠症、眠気をもよおす方法、不眠症に対するさまざまなアプローチについて、紹介します。ホットミルクなんかじゃ眠くならないと感じるのは、きっと筆者だけではないかと思います。そんな方々にとって、良質な睡眠を取る助けになればと思います。
眠りのメカニズム
私たち人間は、体内時計にしたがって、眠るべきときに眠るようになっています。ここでキーワードになるのが、体内時計に「おやすみの時間」を知らせるメラトニンという物質です。生活習慣を意識的に改善することで、メラトニンの分泌を正常化し、睡眠を改善するのが、不眠症に対する生理的なアプローチです。
体内時計のスイッチ「光」
メラトニンは、私たちの脳にある松果体(しょうかたい)という部位から分泌されるホルモンです。メラトニンは、体内時計を覚醒モードから睡眠モードに切り替えます。眠りを調節するその作用から、睡眠ホルモンとも呼ばれます。
私たちの体内時計は、光を浴びることでリセットされます。メラトニンは、体内時計がリセットされてから、およそ15時間後に分泌されます。
メラトニンが分泌されると、脈拍、体温、血圧が調整され、身体を眠る状態に落ち着かせます。
メラトニンの分泌量は光の影響を受けます。明るいところでは多く、暗いところでは少なく分泌されます。つまり、寝るべき時間に明るい環境にいると、メラトニンの分泌量は少なく、体内時計に「おやすみの時間」だということを伝えられなくなってしまいます。
朝は陽を浴び、夜は暗くする
身体に1日のリズムを刻むため、人間には体内時計が備わっています。体内時計によって、夜になったら眠くなるという反応が起きます。
先にふれたとおり、体内時計は光を浴びることでリセットされます。この眠りのメカニズムを見てみると、覚醒・入眠のリズムを調整するには、朝になったら太陽の陽を浴びて、夜になったら部屋を暗くするのが効果的だということがわかります。実に自然に即していますね。
加えて、起床時間を一定にすることにより、体内時計を調整しやすくなります。
生理的にみると、当たり前ともいえる結論になりました。しかし、現代人の生活や働き方はとても多様で、実際に自身の生活を見直してみると、改善の余地がきっとあると思います。
不眠のタイプ
寝つきが悪い、寝てもすぐに目が覚めてしまう、眠っても眠った気がしない、など。一口に不眠といっても、そのタイプは様々です。このような症状は、ひどくなると生活に悪影響を与えます。
実際に医学的に不眠症と診断されるには 基準があります。次の症状のうち1つ以上が週3回以上、1ヶ月以上続くと不眠症または睡眠障害と診断されます。
寝つけない
夜、寝ようと思ってもなかなか眠れない症状を入眠障害といいます。誰しも経験したことのある、不眠症の代表的な症状です。
何度も目が覚める
夜寝てから朝まで寝続けることができず、途中で頻繁に目を覚ましてしまう症状を中途覚醒または途中覚醒といいます。
早くに目が覚めてしまう
早すぎる時間に目が覚めてしまい、もう一度寝ようと思っても眠れない症状を早朝覚醒または早期覚醒といいます。
ぐっすり眠れない
一応寝ることはできても、眠りが浅く、熟睡できず、日中に気だるさを感じる症状を熟眠障害といいます。
眠れない原因
それでは、私たちはどうして眠れなくなることがあるのでしょうか。不眠症と診断されるほど、眠れなくて困っている人は、決して少なくありません。
不眠症となる、あるいは眠れなくなる原因には、次のようなものが考えられます。人によっては、これらの原因が複合的に絡まっていることもあります。自分が眠れない原因に見当をつけて、意識的に改善を試みることで、安眠に近づくことができると思います。
生活リズムの乱れ
不規則な生活をしていると、体内時計が狂いやすくなります。「眠りのメカニズム」でもふれたように、朝に太陽の陽を浴び、夜寝る時間には部屋を暗くしておかないと、理論的には眠りづらくなります。
しかし、現代人の生活は多様で、深夜や早朝に仕事や勉学に勤しむ人もいれば、国内外の移動が多く常時時差ボケになっている人もいます。つまり、理想通りの生活リズムを刻むのが困難な人は、自ずと体内時計が狂いやすく、眠れなくなったり、不眠症と診断されたりするかもしれません。
身体の病気
高血圧や心臓病(胸苦しさ)、呼吸器疾患(咳や発作)、腎臓病、前立腺肥大(頻尿)、糖尿病、間接リウマチ(痛み)、アレルギー疾患(かゆみ)、脳出血や脳梗塞など、身体の病気の症状によって、眠りが妨げられることがあります。また、睡眠時無呼吸症候群やムズムズ脚症候群など、睡眠に伴う呼吸異常や身体の不随意運動(自分の意思によらない動き)によって、眠れなくなってしまうことも珍しくありません。
この場合、不眠は派生的な症状なので、病気そのものを治療するのが先決です。不眠の原因となっている病気が治れば、あるいは症状が緩和すれば、睡眠を妨げる原因がなくなるので、眠りやすくなります。
メンタル面のストレスや緊張
身体の病気の他、メンタル面でのストレスや緊張も安らかな眠りを妨げます。一般的に、神経質で生真面目な性格の人は、ストレスをより強く感じ、ためこみやすいため、不眠の原因を作ってしまいがちです。また、不眠になったことに対してさらにストレスを感じる悪循環にハマると、不眠が悪化し、不眠症と診断されるに至ることもあるようです。
メンタル面の病気(こころの病気)の多くは不眠を伴います。最近では、うつ病にかかる人が増えています。不眠症だと思っていたら、実はうつ病だったということもあります。
早朝覚醒と日内変動(朝は無気力だけど、だんだんと元気が出てくる)の症状が見られる場合には、専門医に診てもらうことをおすすめします。※不眠症は、心療内科や精神科で受診できます。
薬や刺激物
治療薬が不眠をもたらすこともあります。睡眠を妨げる薬には、降圧剤、甲状腺製剤、抗癌剤などがあります。なお、抗ヒスタミン剤は、日中の眠気を引き起こします。
薬の他にも、コーヒーやお茶などに含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチンには覚醒作用があり、安眠を妨げます。とりわけカフェインには利尿作用もあるため、いわゆるトイレ覚醒(トイレに行くのに目が覚めてしまう)も増えます。
安眠に不適切な環境
騒がしい環境、暑すぎる環境、寒すぎる環境、湿度が高すぎる環境、明るすぎる環境、蚊や羽虫などがいる環境などでは、安眠を確保することは難しく、寝つきも悪くなります。
お年寄りは眠りが短い
よく、お年寄りは朝が早いといわれますが、これは医学的に確認されています。
通常、加齢とともに体内時計は前倒しになります。身体は体内時計にあわせて、自然と早寝早起きの状態に移るのです。
また、お年寄りの場合、若い人に比べて、深い睡眠である徐波睡眠※が短くなります。
さらに、身体を睡眠モードに切り替えるメラトニンは、分泌量が多ければ眠りやすくなりますが、少なければ眠りづらくなります。メラトニンは、浴びる光の量に応じて分泌量が決まりますが、その他にも加齢とともに分泌量が低下するという特徴があります。
これは加齢に伴う自然な現象なので、歳をとって朝が早くなったからといって、病気であったり、不健康であったりというわけではありません。
※徐波睡眠(じょはすいみん:SWS, Slow Wave Sleep)とは、入眠から1〜2時間後に到達する最も深い睡眠のことです。徐波睡眠時には、成長ホルモンの分泌が活発になります。学術的には、4段階に分かれるノンレム睡眠のうち、最も深い眠りである段階4にあたる。つまり、最もグッスリなときです。
快適な睡眠のための7か条
私たちが健康的な生活を送るためにも、睡眠の質は重要です。厚生労働省は、国民の健康増進を考えて「健康づくりのための睡眠指針検討会報告書」を取りまとめ、報告書において「健康づくりのための睡眠指針 快適な睡眠のための7か条」というグッスリ眠るためのコツを公式に発表しています。これは、不眠を含む睡眠に関する問題を科学的に考え、快適に眠るために示された万人に通じる睡眠指針です。以下に各指針を要約します。
健康づくりのための睡眠指針 快適な睡眠のための7箇条
(1) 快適な睡眠でいきいき健康生活
→眠ると健康になり、眠らないと病気になる。運動を取り入れ熟睡し、朝食をとって目覚める。
(2) 睡眠は人それぞれ、日中元気はつらつが快適な睡眠のバロメーター
→8時間睡眠にこだわらず、自分に適した睡眠時間を確保。寝床でだらけない。加齢に伴い睡眠時間は短くなるのが普通。
(3) 快適な睡眠は、自ら創り出す
→寝る前のカフェインや寝酒は避ける。寝やすい環境を整える。
(4) 眠る前に自分なりのリラックス法、眠ろうとする意気込みが頭をさえさせる
→息抜きでリラックス、眠ろうと焦らない。ぬるめの入浴を取り入れる。
(5) 目が覚めたら日光を取り入れて、体内時計をスイッチオン
→基本は早寝早起き、毎日決まった時間に起床、夜更かし注意。
(6) 午後の眠気をやりすごす
→短く昼寝してリフレッシュ。夕方以降の昼寝や長時間の昼寝は不眠のもと。
(7) 睡眠障害は、専門家に相談
→不眠は身体や心の病気のサインかも。不眠、熟睡できない、寝ても眠いなら注意。
みんなの不眠解消法
厚生労働省の「快適な睡眠のための7か条」は公式な睡眠指針で、不眠を解消するヒントも多くあります。しかし、それらに気をつけていても、眠れず悩むこともあると思います。以下では、不眠を克服するために公式に発表されたものではありませんが(公式発表と同じものもあるかもしれませんが)、不眠に悩まされる多くの人が実践してきた「不眠解消法」を参考にまとめてみました。
- 就寝時間、起床時間を定めて習慣化する。
- 休日前だからといって夜更かししない。
- 休日だからといって寝すぎない。
- 長時間の昼寝は避ける。
- 朝起きるために朝に用事を入れる。
- 理想の睡眠時間にこだわらない。
- 日中に適度に運動して疲れておく(有酸素運動など)。
- 日中にしっかりおしゃべりをしておく。
- 趣味にうちこんでストレスを解消したり、悩みを吹き飛ばす。
- 寝る前にリラックスできる時間を設ける。
- 入浴、足湯、半身浴、シャワーなどでスッキリする。
- 深く眠るために寝酒はしない。
- ベッドや布団、枕、照明にこだわる。
- 暑いや寒いを我慢せず、湿度計を使って適切な湿度を維持する。
- 寝る直前の飲食を控える。
- トイレ覚醒が起きないよう、寝る前には水分を摂りすぎない。
- 寝る前にはトイレで用を足しておく。
- 明日朝でいいや!といった心配事を作らない。
眠れないときはどうする
眠らなくてはいけないのに眠らないというのは、かなりのストレスになります。このストレスがさらに眠りを妨げるので、悪循環に陥ります。では、眠れないときはどうすべきか・・・、これに対して明確な答えはありません。
筆者個人的な考えになりますが、どうしても眠れないときには割り切って起きるようにしています。寝室の照明を薄暗くつけて、本を読むと、ほどなくして疲れて眠くなりました。スマホを使っていても同様に眠くなりましたが、人によってはスマホの光を見て覚醒してしまうかもしれません。
眠ろうと思って布団にくるまっていても、頭はしっかりと動いています。「明日は忙しいのに眠れないなんて最悪だ!」「このままじゃ睡眠不足で仕事にならない!」など、イライラが募るばかりです。眠るまでひたすら目をつぶっていると、余計なストレスがどんどん積み重なってしまうかもしれません。人間、一日や二日寝なくても死にはしない、そう開き直ることも、場合によっては大切なのかと思います。